特定原子力施設監視・評価検討会58回会議が2018年2月14日に開催されました。
会議での配布資料は原子力規制委員会のサイトに掲載されていますので、そちらをご参照ください。また、会議の映像も配布資料とともにアップロードされており、当日の検討会の模様をご覧いただけます。
http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi/
以下は、かつて福島原発行動隊(SVCF)の原発ウォッチャーを務めたT.M.氏による会議メモです。なお、メモの内容は会議での議論・資料をそのまま追ったものではなく、あくまでもT.M.氏が重要と判断したものを編集したものです。
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議題1.東京電力福島第一原子力発電所中期的リスク低減目標マップの改訂について
資料1に沿って、今井(規制委員会)が、前回からの作業進捗と表示方法の素案を説明した。「資料1−1」は号機毎に縦軸にリスク事項・横軸に時間軸を配したガントチャート方式で表示してある。「資料1−2」は、施設を東西に断面表示し、設備とリスク箇所を高低を含めて図示し、リスク低減を着色表示する方式をとっている。「参考」は、横軸にリスク主分類・縦軸に時間を表示し、リスク源とその低減作業状況を着色表示する方式をとっている。(従来の方式だが、内容が複雑化している)。以上の3案について、出席者の意見と審議を求めた。
この説明を受けて以下の質疑が行われた。
山本(外部専門家):マップ作りの典型的課題に直面していると思う。こうしたマップを作る時には3つの問題がある。第一に、なぜこうしたマップをつくるのか、マップを作る目的である。私見では、①リスクの抜け落ちの防止、②廃炉の工程を関係者で共有すること、③リスク重要度の「見える化」の三点がある。第二に、マップを誰に読んで欲しいのか。これは①原子力規制庁、②東京電力、③国民の三者だろう。その際、内部向けと国民向けでは要求される深さがかなり違うので同じものにするのは難しいだろう。第三にマップでカバーする範囲。基本的には放射線が人と環境に及ぼす影響を防護することだ。また労働安全も入れておいた方がいい。リスク解消後もリストに残すべきである。
高坂(外部専門家):国民向けには1枚で分りやすく表示したものを、他方、検討会ではリスクの精密な把握、といった形で2種類あっても良いだろう。ただし矛盾が無いことが前提となる。「資料1-2」は分りやすくてよいが、リスクの大きさを「円」に、また低減状況を「円分割」表示してはどうか。
蜂須賀(大熊町商工会会長):「資料1−2」のリスク変化の色分け表示では凡例が欲しい。「参考」では「労働安全」と「環境安全」を区別して表示して欲しい。
高坂(外部専門家):「参考」の「液体放射性廃棄物」に関し、平成30年近辺の「海洋放出」については地元に異論もある。「タンクの保全」に置き換えられないか。
橘高(外部専門家):同じ項目の「タンクの増加抑制」は「増加をなくす」とすべきではないか。
今井(規制委員会):」ご意見を参考にして改訂版を提示する。3種類それぞれが必要とも感じた。
所見:更田委員長が地元でALPS処理済み水の海洋放出について発言したこともあって、マップ上の「海洋流出」について地元の慎重な意見が目立った。「資料1−2」は設備の高低配置が分りやすいが、現在検討中の15m級津波に対しても耐久性に疑問がある。「資料1-1」のガントチャートについては事故発生当初から原発ウオッチャーの中ではPERT (Program Evaluation and Review Technique)を使わないかの疑問があった。東電主体といっても作業が多岐で責任が分散していて作業連携の取り方が難しいということだろうが。
議題2.建屋滞留水処理の進捗状況
小林(東京電力)が資料2について説明した。2020年までに1−3号機の原子炉建屋以外の建屋で最下層床面を露出させる作業の途上にある。スラッジの影響で号機別の空間線量に差異があり、無人作業が必要な箇所もある。
この説明を受けて以下の質疑があった。
高坂(外部専門家):①タービン建屋中間部の空間線量が高いことによるポンプ設置作業への影響はないのか。②2020年以降の地下水流入に対してどのような対策を考えているのか。ドレンポンプで対応可能か。サブドレンや遮水壁も考えているのか。
小林、佐藤(東京電力):①2、3号機1階の床面線量は1mSv/h程度であり、作業は可能である。②ドライアップ後(2020年以降)の地下水流入に対してはサブドレンの増強と遮水壁の併用を考えている。また相対的に比重の高まる雨水流入にたいしては屋根の補修を検討している。
山形(規制委員会):TP-1000ということではある程度の地下水流入が継続することになるが、それを延々と何十年も続けるのか。2020年以降どうするのか。これ以上タンクを増やさないということは維持できるのか。次回か次々回に報告して欲しい。
橘高(外部専門家):資料15ページにある昨今の滞留水の放射性物質の線量を見ると床面堆積物の攪拌による増加が考えられる。沈殿スラッジへの対応が必要である。
山本(外部専門家):14ページの原子炉建屋トーラス室内滞留水線量(①、②)は、上澄み水(⑨、⑩)より2桁高い。トーラス室には滞留していると考えてよいか。
小林(東京電力):目視ではトーラス室内水は濁っていて、流出水は澄んでいる。
今井(規制委員会):資料5ページの2号機測定点Cの線量が1000mSv/hと非常に高い。これに対する対策は早めに検討して欲しい。
今井(規制委員会):サブドレンの電源は「非常用」ではない、長時間電源がなくてサブドレンが止まることもありうる。他に排水方法の検討はしているのか。
徳間、小林(東京電力):近接作業は難しく、検討中である。サブドレンは信頼性向上で対処していく。
高坂(外部専門家):18ページで、1、2号機間の切り離しと3、4号機間の切り離しが終わったとある。隔壁遮水は完璧か。漏水への対処法は。
徳間(東京電力):1号機、4号機に仮設ポンプを設置して対処している。
田中委員:提起された問題については次回に報告して欲しい。
議題3..地下水及び雨水流入対策の現状
資料3に沿って佐藤(東京電力)が説明した。資料は用意されていたが、説明は主として雨水流入対策に絞られ、屋根の補修と地面のフェイシングの現状と計画が中心であった。
説明を受けて以下の質疑があった。
橘高(規制委員会):5ページの3号機タービン建屋の屋根の補修は無人クレーン作業でアンカーは打てるか。コンクリートの流し込みは可能か。
林(東京電力):アンカーは有人でできるように現在検討している。屋根面の海側(東側)傾斜を利用してコンクリート打設する。穴部はパネルを敷設してからコンクリ施工の予定である。
田中委員:排気塔解体との干渉はないか。
都築(東京電力):モックアップで確認している。
高坂(外部専門家):クレーンヤード敷設や2号機周辺など床面のフェーシングを同時に施工して欲しい。
山形(規制委員会):確認したい。第一に、3ページに4号機原子炉建屋のカバー設置済みとあるが、これは事実か。第二に、3号機原子炉建屋には使用済み燃料棒取出し用カバーが出来るが、屋根面の半分以上が露出する。対策はどうなっているのか。第三に、1号機は2023年頃カバー設置とあるが可能か。またそれまでの雨水対策はどうするのか。
佐藤(東京電力):第一に、現状で雨水は入らない。第二に、軽量カバー敷設を検討中である。第三に、1号機は瓦礫撤去までが計画範囲であり、雨水対策はその後になる。
今井(規制委員会):水について、従来は横(地下水)対策が主だったが、今回は縦(雨水)にまで対策が出てきたと理解している。号機ごとの流入・対策・効果のまとめをお願いする。
山形(規制委員会):場所別測定は困難だろう。滞留水を増やさない対策が優先されるべきだと考える。
蜂須賀(外部専門家):屋根開口部の数と面積はどれほどなのか。作業によるダスト飛散対策はどうなのか。
佐藤(東京電力):3ページに示した3号機タービン屋根は爆発による「穴」だが、1,2号機廃棄物処理建屋の屋根は鉄骨屋根の崩壊で「数」「面積」を一様に勘定できない。屋根面整備に当ってはダスト飛散防止剤と誘引機構を準備する。
高坂(外部専門家):20ページ「水収支」は、屋根からの流入を含め2020年の評価が欲しい。
橘高(外部専門家):「水収支」の直近評価で地下水流入量(F)とサブドレン汲上げ量(A)が同じ330㎥ということは凍土壁の効果がないとも読み取れる。
松本(東京電力):次回に御意見について、「水収支」に追加したい。ただ、絶対量が減少してくると量的誤差が大きくなることは了解頂きたい。
総括所見:今回は経過報告・中間報告的な3議題だったので、激しい議論も少なく2時間で会議が終了した。しかし、「リスク削減目標マップ」は今後重要性を増してくることには間違いない。東電(とその廃炉技術開発を支える国際廃炉研究開発機構(IRID))、廃炉事業を担う廃炉支援機構(NDF)、核廃棄物処分を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)、それぞれが持つリスクとも関連がある。また、これら「機構」の責任者は福島事故以前の経産省原子力委員会の主要構成員と重なっている。議題1の所見でも触れたが、PERTなどのプロジェクトの全工程管理の導入が必要になると考える。
以上