特定原子力施設監視・評価検討会56回会議(2017年10月30日)傍聴メモ

特定原子力施設監視・評価検討会の第56回会議が10月30日に開催されました。

会議での配布資料は原子力規制委員会のサイトに掲載されていますので、そちらをご参照ください。また、会議の映像も配布資料とともにアップロードされており、当日の検討会の模様をご覧いただけます。

http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi/

以下は、かつて福島原発行動隊(SVCF)の原発ウォッチャーを務めたT.M.氏による会議メモです。なお、メモの内容は会議での議論・資料をそのまま追ったものではなく、T.M.氏が重要と判断した議論を編集したものです。

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会議開始前に、規制委担当委員が更田氏から田中知氏に変更したとの発言があった。

議題1.建屋滞留水処理の進捗状況について

資料1に基づいて小林(東京電力)が説明した。1から3号機原子炉建屋以外の建屋の最下階床面を2020年までに露出させる計画を進めている。1号機復水器の水抜きが完了した。2~3号機はホットウェル天板下の残留水を処理中である。プロセス主建屋のセシウム137の濃度が2016年末頃から反転上昇している。

この説明をめぐって以下の質疑応答があった。

山形(規制委員会):セシウム濃度上昇が復水器に起因するのなら総量算出は可能ではないか。対象水の性質を統一して濃度の定義を明確にすべきである。

橘高(外部専門家):濃度というが、完全水溶液か縣濁液か。状態により評価が変わる。

小林(東京電力):復水器の水量は少ない。作業時の上澄み液で分析した。厳密ではない。

高坂(外部専門家):県も注目している、定量的評価が欲しい。油分回収の水位限界は?

小林(東京電力):水位300mm が必要だったが、現在は改良して150mmで可能である。

桜田(規制委員会):プロセス建屋濃度(p. 5)は全建屋濃度(p. 4)に反映しているか。

小林(東京電力):全て反映している。プロセス建屋濃度の変化が大きいので報告した。

(所見:プロセス建屋のセシウム濃度がここ1年で1.0E+08に一桁上昇した。水溶液というより事故後の縣濁液が疑われるが、東電は工事の進捗を優先している。)

議題2.地下水流入対策の現状

資料2について都築(東京電力)が説明した。サブドレン処理能力は計画1,500㎥/Dに対し現在1,000㎥/D となっている。建屋流入量は100㎥/Dまで下がっていたが、台風21号で一時的な混乱があった。データを収集中である。陸側凍土壁は最後の西側③の凍結を開始した。地下水流入量は630㎥/Dで、サブドレン汲み上げ510㎥/Dであり、建屋流入量は 120㎥/D というのが現状である。

この説明をめぐって以下の質疑応答があった。

山形、今井(規制委員会):4m盤海側の鋼管杭と凍土壁に東西を閉じられ表土もフェーシングしている地域で、地下水移動(110㎥/D)が発生するのは何故か。

都築(東京電力):8.5m盤も含めフェーシングも完全ではない。

橘高(外部専門家):凍土壁遮水効果をどう評価しているのか、補助工法が要るのか。より強固な他の工法への変換が必要ではなかったのか。

都築(東京電力):評価は整理中である。凍土壁とサブドレンで地下水制御が可能かどうかも検討している。山側流入量は0にはならないと考える。

(所見:企画当初と異なり東電は凍土壁とサブドレンでの地下水制御でよしとする態度。規制委と有識者は凍土壁の止水効果について、過酷事故対応策としての有効性を見極めたいとの態度。結局は曖昧な決着になるだろうが。)

議題3.新設サブドレン水位計設定誤りに伴う運転上の制限逸脱について

佐藤(東京電力)が資料3をについて説明した。本年4月以降に新設したサブドレンピット6ヶ所で水位計設定に690mmの誤りを発見した。原因は、震災で敷地標準地表(O.P.〔小名浜標準水位〕10m)が約700mm 沈下していた(O.P. 9.3m)中で、仕様の読み取りについて発注側と受注側の間で理解に齟齬があったことによる。現在はT.P〔東京湾標準水位〕(O.P+727mm)を水位管理では使用している。1ヶ所で建屋との水位逆転が起きたが、周辺のサブドレンで吸収した。またLCO(Limiting Conditions for Operation:運転上の制約)逸脱事項ではなかった。

以上の説明をめぐって以下の質疑応答があった。

山形(規制委員会):水位逆転ドレンの内側に既設ドレンがあって幸いだったが、新工事のチェック体制はどうなっているのか。特に安全管理面ではどうか。

佐藤:設計時に Design Review 検討会でまずチェックする。その後、公示着手時に安全事前検討会がある。

山形(規制委員会):今回の問題はこうした検討会でひっかからなかったのか。

中村(東京電力):今回の「水位基準」については事前のラインでの検討に任せていた。

高坂(外部専門家):資料16ページにあるように新旧O.P. とT.Pが混在していてた。「水位管理」を優先していたのが裏目に出ている。

増田(東京電力):平成27年に地盤沈下に留意してT.P. 基準にしたが、設備的なものでは設計原図の修正をしないと統一しない。サブドレンについては多数の施工経験があったことがチェックにおいて裏目に出た。マニュアルの整備を図る。

(所見:マニュアルの中身に、記号やカラーで工事の階層や関連部門を識別できるようなものが必要だと思う。本件についてはサブドレン工事が水位管理にリンクしていないのが奇異に感じる。)

議題4.サブドレンNo.51の水位低下について(原因と対策)

幅野(東京電力)が資料4に即して説明を行った。事象自体については前回説明を行った。事態の把握の遅れはドレン管理の土木部門とドレン掘削の建設部門の連絡不良と計器についての認識不足にある。LCO逸脱について認識不足があった。体制の再構築と訓練実施をはかる。

以上の説明をめぐって以下の質疑応答があった。

今井(規制委員会):担当者レベルの報告・連絡の問題との認識には不満である。もっと指揮命令系統の問題だ。LCOは自動的な発報体制が必要である(「確認後対象外」で良い)。

増田(東京電力):「当直長」が現場責任者であり、当直長が「LCOではないか」と判断したら発信するように指導しており、誤っていたら訂正すればよい、ということで指示している。

山形(規制委員会):民間では独立した安全管理部門が許可の判断をし、工事部門は運転部門の承認を得た上で工事に着手するのが一般だが、東電の体制はどうなっているのか。

増田、幅野(東京電力):許可権を含めて当直長に責任がある。1Fの場合、設備に変更が多く、内容を完全に理解することが難しい状況もある。

高坂(外部専門家):工事を建設部門から土木部門に変えるだけでは十分でない。計器二重管理の別系統化も検討が必要である。

(所見:資料(p. 46)に「公表上の問題点と対策」がまとめられていたが説明がなかった。更田前主査は「社会に対し愚直で技術的な公開」を求めていたが、p. 46の記述も閉鎖的で技巧的に見える。議題3も情報公開対象だと考えるが。)

議題5.燃料デブリ取り出し作業における安全確保の考え方

飯塚(東京電力)が資料5について説明した。デブリ観察の状況と、取り出し方針について「初期段階」と「大規模取り出し」の方向についてステップ・バイ・ステップの内容を説明した。

この説明をめぐって以下の質疑応答があった。

星(規制委員会):事故時検証のため貫通部の状況保全は重要である。どう折合いをつけるか。

飯塚(東京電力):映像は保存してある。拭取り残渣も保存する。ただし高線量だけに困難もある。

橘高(外部専門家):デブリの性状(例えば硬度)が未確認である。初期段階取り出しをどうするか。

飯塚(東京電力):まず上部の粉状堆積物の収集・分析から開始する。

今井(規制委員会):大規模取り出しの情報が先行していると懸念したが、「初期段階」設定で安心した。

比良井(エネ庁):9月26日策定の「中長期ロードマップ」で示したように(資料 p. 8参照)、ステップ・バイ・ステップで。本検討会でも充分な審議を頂きたい。

山形、桜田(規制委員会):「初期段階」は目標と作業の繰り返しと想定する、本会に報告をして欲しい。「取り出し」以前に「堆積物採取」の段階があると考える。

田中委員:事故調査とデブリ取り出しは重複部分がある。事態の整理と安全確保を第一に進めて欲しい。

(所見:規制委には、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NFD)と東電だけで「リスク評価」なしに事態が進むことに懸念があったが、今回の東電の説明とエネ庁の発言から規制委の関与を確認できた。)

議題6.フランジ型タンクに関するリスクの低減策の進捗

小林(東京電力)が資料6について説明した。10月26日の時点でフランジタンク使用は113基(本年1月5日と比べると62基減となっている)。継手部への被覆補強を進めている。

この説明に関して質疑応答はなかった。

議題7.福島第一原子力発電所のサンプル分析について

溝上(東京電力)が資料7について説明した。JAEAに7サンプル、NFDに2サンプル送付済み。NFDはSEM分析を開始した。

この説明に関し、田中委員から以下のコメントがあった。

田中委員:これから分析の重要度が増す。分析が作業の足を引っ張らないよう監視が必要である。

(全体所見:田中委員はこれまで「廃棄物処理委員会」の主査を務めていた。この会の主査就任で「廃棄物処理委員会」の存在はどうなるかが不明である。また、前座長の更田委員が強調していた「リスク評価と公開」という原則が今後どうなるか、次回以降注目する必要がある。)

以上

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