特定原子力施設監視・評価検討会55回会議(2017年8月30日)傍聴メモ

 

特定原子力施設監視・評価検討会の第55回会議が8月30日に開催されました。

会議での配布資料は原子力規制委員会のサイトに掲載されていますので、そちらをご参照ください。また、会議の映像も配布資料とともにアップロードされており、当日の検討会の模様をご覧いただけます。

http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi/

以下は、福島原発行動隊(SVCF)の原発ウォッチャーを務めたT.M.氏による会議メモです。なお、メモの内容は会議での議論・資料をそのまま追ったものではなく、T.M.氏が重要と判断した議論を編集したものです。

議題1.建屋滞留水処理の進捗状況について

徳間(東京電力)が、建屋滞留水(1~3号機の復水器とホットウェル(H/W)天板下の残留水)について、タービン建屋(T/B)床残水処理(油分回収・ダスト抑制を含む)を中心に状況説明を行った。

この説明を受けて以下の質疑が行われた。

更田委員:全体的には順調と判断できる。14ページで、サブドレン効果に加えて陸側遮水壁効果を図示しているのは東電としての評価だろうが。

山本(外部専門家:(1) 1号機タービン建屋床面の線量はどれほどか。(2) ダストの核種は何か。

徳間(東京電力:(1) については10~30mSvレベルと確認している。(2) 核種は現在のところ不明である。

高坂(外部専門家):1号機タービン建屋床面への流入量と線量はどれほどか。

徳間(東京電力):流入量は一日平均で8㎥である。線量は11ページに記載してある通り、ダストベースで1.E-05ベクレルレベルである。

議題2.地下水流入対策の現状

都築(東京電力)が資料2にもとづいて説明した。それによると、建屋への地下水流入は、初期の400㎥/Dから120~140㎥/Dに減少した。サブドレン汲み上げは一日あたり500㎥であり、4m盤の汲み上げは160㎥である。また陸側遮水壁の最後の西側 (3) の凍結を開始した。

この説明を受けて以下の質疑が行われた。

更田委員:4m盤で160㎥であるとのことだが、陸側凍土壁完成時には70㎥/Dに減少するはずであるとの説明が以前にあった。実証を待ちたい。

蜂須賀(大熊町商工会会長):凍土壁については計画から時間が長くかかっている。完工後のランニングコストも問題ではないか。いつまで凍土壁を維持するのか。

松本(東京電力):7~8年の耐用性がある。作業員被曝の観点からコンクリートではなく凍土壁を選択した。建屋内滞留水の処理が終れば解凍することになる。

更田委員:検討会の当初から規制委はサブドレンでの水位管理を主張し、エネ庁・東電は「重層的対策」として凍土壁に着工した。費用対効果を含めて事業主体が評価すべき問題である。

高坂(外部専門家):2ページにある「①-2 集水タンク増設」は11月の台風シーズンに間に合うか。

松本(東京電力):昨年の台風シーズンはバキューム車まで出動したが、今年は大丈夫である。

所見:凍土壁対サブドレンはどこかの時点で費用対効果の比較をすべきである。地下水が日本での大規模土木工事の必須検討事項であることは理解するが、1Fでの凍土壁は余りにも飛躍した仕様設定だったと私見として思う)

 

議題3.サブドレンNo.51の水位低下(原因と対策)

幅野(東京電力)が資料3に基づいてサブドレンNo.51の水位低下について、事態の経緯と原因、対策について報告した。

それによると、8月2日18時半にNo.51サブドレンの水位低下を計器が示した。現場では計器故障と判断したが、近隣のサブドレンNo.215の掘削工事により連通管を介してNo.51の水が汲み上げられていたことが判明した。

事態がLCO(運転上の制約)を逸脱したか否かを社内で議論したが結論は出なかった。8月3日20時55分に至ってLCO逸脱を発信した。

この報告を受けて以下の質疑が行われた。

蜂須賀(大熊町商工会会長):起こった事態をそのまま認めるのではなく「機器故障」と捉えている。事態の報告・公表の点で対応に後ろ向きである。こうした経緯説明で地元が納得できるわけがない。1Fの事態は誰も経験のあるものでなく「公開と信頼」を前提とすべきである。

幅野(東京電力):水位計に対する認識が統一しておらず、サブドレン1本だけが水位低下する事態について想像が働かなかった。現場に地下土木の専門家が不在だった。

山本(外部専門家):(1) 計器誤報のこれまでの事象と改善の方策について説明してほしい。(2) サブドレン掘削時の水位制御法はどうなっているのか。

松本佐藤(東京電力):(1) 漏洩検知器が水濡れで誤作動するなど計器故障は時折ある。改善方策を検討している。(2) 23ページにあるように事故時は掘削土砂とともに水も汲み出していたが、現在はケーシング内を水張りして、水圧で他からの流入を防止している。

高坂(外部専門家):県でも来週「廃炉協」で審議する予定である。「保安規定」の取扱いに注意してほしい。

更田委員山形(規制委):保安規定ではLCOでなくとも通報義務はある。資料では中電浜岡で同種の事例があったとしているが、後になって中電は処罰を受けている。東電資料は「保安規定」の都合の良いところだけを抜き出している。

櫻田(規制委):掘削作業で周辺水位変動は良くある。事前予測の可能性はどうか。

松本(東京電力):サブドレン増強はこれまでにもあり、当初は水位変動に慎重だったが、事故例は無く慣習化していたとも言える。

更田委員:本件については言いたいことは山ほどあるが、以下5点にまとめる。

(1) 原因については、水位低下と連結間との関係がほぼ特定できた。

(2) 影響については、建屋壁から内部汚染水が流出するのが最大のリスクである。サブドレン内の水質を計測しても全く意味はない、論理のすり替えだ。

(3) 対策については、掘削井水張りは妥当である。水位計2個が同一電源下にあるのは問題である、規制委でも別系統化を検討する。

(4) 通報については、保安規定による対応が翌日では遅すぎる、対応を検討のこと。

(5) 公表については、「正しく社会に発信する」ことが東電の使命である。今回の事象では地域の信頼を失った。民間では「広報によるダメージコントロール」が一般だが、1Fではそれは逆効果である。技術者が情報発信を愚直に行うべきだ。

(所見:事象自体はそれほど大きなものでなかったが、情報処理の手順にルールが定まっていないことに加え、サブドレン工事に対して東電(プラス鹿島)がやや手抜き気味な様子が窺える(凍土壁に比べて)ところに不安がある)

 

議題4.地震・津波対策の進捗状況

資料4に基づき、増田(東京電力)が、(1) 除染装置スラッジの保管リスク低減、(2) 1、2号機の排気筒解体対策、(3) 3号機タービン建屋の津波防護について説明した。

この説明を受けて以下の質疑が行われた。

更田委員:スラッジ(アレバ社の除染装置に起因)のTTL線量は1.0E16Bqと建屋滞留水総量の線量より高い。移送作業中の津波に対しても対策検討が必要である。

高坂(外部専門家):開口部に蓋を設置する「検討用津波」対応案はどうなったか。

松本(東京電力):併行して検討しているが、高台への移送が対策的にはベターだと考える。

 

議題5.眼の水晶体の放射線防護

時間的な制約から、本件は資料配布のみで口頭での説明は省略された。

 

議題6.排水路の放射性物質濃度低減

資料6をもとに、白木(東京電力)が説明した。K排水路の線量が高い。原因は1~3号機屋根面の汚染が高線量であることによる。有人除去が困難である。屋上からの雨水配管に浄化剤設置を検討している。

この説明を受けて以下の質疑が行われた。

高坂(外部専門家):浄化剤の効果は?

白木(東京電力):流量把握中で定量化出来ないが、1/10程度は期待できる。

 

議題7.燃料デブリ取出し作業に係わる安全確保の考え方

資料7に基づいて飯塚(東京電力)が説明した。デブリ取り出し工法の技術要件をフロー化し、作業のイメージと安全確保対策を例示した。

山形(規制委):来年度上期には取出し初号機が決定されると聞いている。この内容は前回と変わりない。作業のシナリオと関連データを提示して欲しい。

松本(東京電力):東電が全てを揃えて説明するという姿勢ではない。安全と費用を勘案しながら、この場で意見を聞きながら進めるというのが東電の姿勢である。

更田委員:制御上の視点から条件が決まる。現段階では原子力損害賠償・廃炉等支援機構(Nuclear Damage Compensation and Decommisioning Facilitation Corporation, NDF)が「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」の考えを示したことに意義がある。

高坂(外部専門家):規制委がデブリ取り出しのリスク管理に積極的に乗り出すことを期待したいが。NDF系では、原子炉側面からのデブリ取り出しや、炉底への大量コンクリート投入なども検討している。

更田委員:一時的なリスクは高まるだろうが、積分値として検討したい。

所見:デブリ問題については規制委は現段階では積極的な関与を避け、NDFの処理計画の状況を見てリスクの側面から評価検討するつもりのように窺える)

会議終了前に更田委員から「5年間この検討会に参加したが、今日で最後になる。これからも専門委員・東電・エネ庁・規制委で作業を実直に進めて欲しい」との退任挨拶があった。

総括所見:更田座長は検討会の運営に当って「リスクの低減」を目標とし、そのために対象物の核種・線量・総量・状態(気体・液体・固体)から優先順位を策定した如くである。特に事態の安定という意味で「状態の安定度」を重視し、事故後の経過年数から汚染水の除染を優先した。作業方法については過誤もあったが(例えば海水配管トレンチの凍結除去の失敗)、一方で固体で再臨界の可能性の低い燃料デブリについては、その超高濃度汚染にもかかわらず将来の課題として現段階での踏み込んだ検討は避けていた節がある。座長の後継者は不明だが前任者の意図を引き継ぐ人物であって欲しい)

以上

 

 

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